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緩和ケア(その3)

「がん難民」という言葉を聞いたことがありますか?

緩和ケア(その2)でも簡単に説明しましたが、一般的には、いろいろな治療方法を求めて、様々な病院を探し求めて途方に暮れている状態の方を言います。現在の癌治療は、たくさんの抗がん剤が選択でき、これがだめならあれ、あれがだめならこれと次々と新しい薬が提案されます。放射線療法も種類が増えました。

免疫療法も保険が通るようになり、一般の癌治療と肩を並べるようになっています。様々な情報がネットで検索できるようになり、あまりにも多い選択肢を前に、患者の側も途方にくれます。

もっといい病院があるのではないか、もっといい治療方法があるのではないかと考えるのも無理はありません。
しかし、私が思う「がん難民」は病院での治療が終わった方々の場合です。抗がん剤の効果がなくなって、治療を終了することになると、病院に行く「用事」がなくなります。病院の先生からは、どこか「緩和ケア」をしてくれるところに行ってくださいと言われたりします。信頼する主治医、病院にずっとついてきた患者さんにとって、最期まで面倒を見てもらえるものと思っていたら、突然の宣告に大変ショックを受けられると思います。

抗がん剤の効果がなくなったから、病気がなくなるのではありません。あるいは、癌が見つかったけど、高齢なので、積極的治療(手術や抗がん剤)ができない場合もあります。また、そういった治療を望まない方もおられます。そうした時、病院はそのような患者の面倒は見ません。このような場合、もちろん、すぐ死ぬのではありません。死ぬまでには、まだまだ時間が残されており、癌は相変わらず進行し、様々な症状が出現するのに、いったい誰が治療をしてくれるというのでしょうか?

今かかっている病院が行き先を紹介してくれるとは限りません。自分で探さないといけない場合がほとんどです。役所に行けばいいのでしょうか?実は役所も全然わかってはいません。何も把握していません。本当に情報がないのです。一般的にホスピスは亡くなる直前に入るところです。しかし、抗がん剤が効かなくなっても、まだまだ生活が自立されており、ホスピス病棟で死を待つだけの生活は望んでいません。

病院で行う以外の民間の治療法もあります。また、高額ですが、保険の効かない免疫療法もあります。患者さんは、もっともっと生きるための治療をしたいのですが、病院はそのような治療法については、相談に乗ってくれません。また、そうした民間療法や免疫療法をしている最中に起こってくる癌の症状コントロールは、免疫療法の担当医がしてくれるわけではなく、ここでも緩和ケアをしてくれるところを探してくださいと言われたりします。

さて、どこへ行けばいいのか???

私は、このような時期の患者さんを「がん難民」だと思っています。私たちのクリニックに来られ、自宅での緩和ケアを受けた方々は、ほとんど「たまたま知った」「偶然知った」などと言われ、もっと早く知っていればと後悔されていました。ホームページなどで情報を発信しても、一部の方しか知ることはできません。また、近隣の病院に宣伝しても、ほとんど利用しようともされません。結局、患者さん自身が自分で探し出すしかないのです。公的な施設が、公平に緩和ケア関する詳しい情報発信を市民にするべきだといつも思っています。

本院と緩和ケアの提携をしています「アマニカス」のホームページを是非ともご覧ください。

院長 松永 美佳子

緩和ケア(その2)

「緩和ケア」はいつから受けたらいいのでしょうか?

「緩和ケア」と言われると、癌の末期に受けるものと思われている方が大勢おられます。「緩和ケア」と言われたらおしまいだ、「緩和ケア」はまだ早いと思う、「緩和ケア」はまだいらない・・・このように言われる方が非常に多いです。しかし、前回のブログでお伝えしたように、「緩和ケア」とは、癌に伴う様々な症状を治療し、看護、介護することです。よって、末期にだけ必要なものではありません。

例えば、大腸がんの手術をすると、人工肛門というものをお腹に着けることがありますが、これをつけたから末期になるわけではありません。人工肛門を使いながら、生活していく上で、時に治療が必要となり、時に看護が必要となります。それは「緩和ケア」に含まれます。

また、痛みのコントロールも重要です。痛みがあると末期だとは限りません。癌の痛み、術後の傷の痛み、あるいは、心の痛みもありますよね。このような痛みを治療することはれっきとした「緩和ケア」です。

さらに、抗がん剤治療を行う時には、様々な副作用に苦しみますが、この副作用を治療することも「緩和ケア」に含まれます。このように、癌とわかったその日から、「緩和ケア」はあなたの傍にいつも必要なものとなるのです。いい「緩和ケア」を受けることができれば、症状のコントロールができ、日常生活が送りやすくなる結果、自分らしく生活することができます。また、体調がよくなれば、希望する積極的治療(抗がん剤など)も継続しやすくなります。・・・「緩和ケア」を避けてはなりません。

さて、「緩和ケア」はどこで受ければいいのでしょうか?

抗がん剤治療などをしていると、病院内に「緩和ケアチーム」などがあり、色々な相談に乗ってもらえることがあります。しかしながら、抗がん剤などの治療をしない場合、残念ながら、病院が「緩和ケア」だけを提供することはありません。さらに、抗がん剤治療を受けていても、抗がん剤の効果がなくなったら、どこか緩和ケアをしてくれるところを探してくださいと言われます。しかしながら、緩和ケアだけを行ってくれる施設は簡単には見つからず途方に暮れるのが現状です。こうして、いわゆる「がん難民」と呼ばれる患者さんが増えているのです。

近所のかかりつけ医の先生が面倒を見てくれることもありますが、難しい症状になると対応が難しくなります。麻薬なども処方できるクリニックは限られています。日本では、まだまだ「緩和ケア」が遅れているのが現状です。途方にくれている方がおりましたら、本院と緩和ケアの提携をしています「アマニカス」のホームページをご覧ください。アマニカスは、病院でも老人ホームでもありませんが、24時間体制で、痛みや癌の「緩和ケア」を専門とする医療・看護・介護を受けられます。

院長 松永 美佳子

緩和ケア(その1)

「緩和ケア」てどんなことをするのでしょうか。皆さん、ご存じですか?

この頃、「緩和ケア」という言葉をよく耳にしますが、10年前にはほとんど言われることはありませんでした。マスコミなどでよく取り上げられるようになったのは最近のことのように思います。

「ケア」とあるので、治療ではなく、看護、介護のことのように思われる方も多いかと思いますが、「緩和ケア」と「緩和医療」とは同じことです。「緩和ケア」とは、癌の様々な症状を治療することと、看護、介護することを意味します。

癌の治療というと、手術、抗がん剤、放射線療法のことしか思いつかないかもしれませんが、癌に伴う様々な症状を緩和することも大切な治療なのです。例えば、痛み、発熱、呼吸苦、腹水/ 胸水の貯留(溜り)、浮腫、食欲低下、倦怠感、肺炎、精神的ストレス・・・など様々な症状を少しでも治療して軽減することが患者さんのQOL(生活の質)を上げます。このような症状をうまくコントロールすることが、強いては、抗がん剤などの治療もうまくいくことにつながります。

上記症状は、癌を治すものではないと思われる方もおられると思いますが、抗がん剤や放射線療法も癌を完全に治すことは稀です。
抗がん剤の効果があるということは、癌がびっくりして小さくなり、延命につながるということで、完全に治すことは極めて少ないのです。だから、抗がん剤のような癌の治療も、症状を軽減する「緩和ケア」も同じレベルの「治療」なのです。「緩和ケア」とは、心の治療も意味します。癌と宣告されて、大変なストレスを抱えて生きていくことになりますが、将来の不安や日常の不安、今後の治療に関する不安など様々な不安があります。

このような不安に丁寧に耳を傾け、一緒に考えてくれる医療スタッフが傍にいれば、どんなに心強いことでしょうか。これも大切な「緩和ケア」の一つです。

さらに、症状の治療だけではなく、看護、介護は大変難しいことが多々あります。これは癌だけではなく、他の病気の看護、介護も同様です。ところが、医療と密接に連携したよい看護、介護を受けられることは、実は簡単ではありません。その人にあった医療、その人にあった看護、介護は10人いれば10通り、できる限りオーダーメイドの「緩和ケア」でありたいものです。

院長 松永 美佳子

高齢化に伴う痛みの緩和は質のいい生活を送る上で絶対必要

日本は世界一高齢化社会と言われるようになりました。女性も男性も平均寿命は毎年更新しています。ペインクリニック外来に来られる患者様も、80歳代の方が多数おられますが、皆さん、とても若く、80歳代に見えない方も多数です。しかし、医療が発達し、内臓の病気は治療されても、首からお尻までの背骨=脊椎は徐々に変形し、骨と骨の間のクッション=椎間板も傷んできます。それは、長年、使ってきた機械がいつまでも新品ではないことと同じです。よく使う場所は擦り切れて、錆びたり変形したりして故障の原因となります。人間の身体も一緒です。長生きできる幸せを手に入れた一方で、身体のあちこちが痛くて動けなくなってしまったら、長生きしている意味がありませんよね。痛みほどつらいものはありません。しかし、痛みほど他人にわかってもらえないものもありません。

ペインクリニックは痛みの治療を専門にするところです。内科や外科、産婦人科や泌尿器科、皮膚科、脳外科・・・これらはだれもが知っていますが、ペインクリニック科という診療科は病院の中でみることはめったになく、知らない方も多数です。しかし、内科や外科と同じように、ペイン=痛みを専門に治療する診療科なのです。

どんな痛みも診療しますが、外来で多いのは脊椎疾患です。簡単に言えば、腰や背中、首などの背骨に関わる痛みです。年を取ると、背骨は変形し、背骨の隙間から出てくる神経が傷つくと、上肢や下肢、首や背中、腰に強い痛みを起こします。高齢になると、背骨の変形も強いため、手術も不可能なことが多いです。機械のように、悪くなった部品を交換できれば話が早いですが、人間の身体はそうもいきません。そんな時、非常に役に立つのがペインクリニックです。

ペインクリニックでは、神経ブロック治療というお注射で神経の傷を治す治療を行います。手術が不可能な場合でも、注射ならできます。かなり状態が悪い方でも、注射をしているうちに、少しずつ改善することが多いです。完全に治らなくても、3分の1、あるいは半分にでもなれば、ずいぶん生活もしやすくなるのではないでしょうか。これからの時代は、ペインクリニックが必須です。長生きして楽しい人生を送るには、痛みを取るしかありません。

皆さん、積極的にペインクリニックを受診してみましょう!

院長 松永 美佳子